題詠短歌2015年

風になる母

『風になる母 百首』 秋人 この年の題詠は、母の死と風をテーマに百首をつくってみた。題詠は与えられたお題の順に投稿していくため、さすがに時の流れに沿った形でつくることができなかったので、再編してみた。時の流れは早く、母の死後、数年の風が吹き抜…

2015年題詠短歌100

001:呼 亡き今は枯葉の風も追うように われ呼ぶ母の声に聴こえて 002:急 いつか来る死とは思えど急だった そんな気がする風になる母 003:要 人生の要の時はいつだって 母がいたはず微風の中に 004:栄 栄え失せ焼夷の風を逃げまどい 平和に飢えた母の青春 005…

孤独みたいに

096:賢 死ぬ母は良妻賢母だったのか 風に聞いても笑われただけ 097:騙 臨終の母を優しく包む風 騙されたのか騙したがわか 098:独 死ぬときは母も一人で風哀し 慕われながら孤独みたいに 099:聴 風に聴く死後の世界の母は今 何を想いて何を哀しむ 100:願 風の…

死神の風

091:略 侵略の焼土の風に涙した 母に病魔がまた攻略を 092:徴 風雲よ漸く母は徴兵で 惨殺された伯父のもとへと 093:わざわざ わざわざとニヤリ顔出しまた消える 母の枕辺死神の風 094:腹 母の死期僕を宿した腹だけが 風船みたく膨らんでいた 095:申 最後まで…

母に寄り添う

086:珠 風誘う珠数玉ひろい手づくりの 母の思い出今日は葬式 087:当 訳もなく当たり散らした反抗期 風にも涙母なき今は 088:炭 樫焼けば備長炭に母焼けば 風に舞う骨もろく崩れて 089:マーク 病床の風が付けたかデスマーク 窶れた母の腕にポツリと 090:山 山…

幼き日々へ

081:付 付きまとう死神の風臭気増し 母微笑めどまた苦しげに 082:佳 佳麗なる母の面影いまはなく 風にかわいた涙やつれて 083:憎 母憎む思いは確かあったけど 風よ帰ろう幼き日々へ 084:錦 母望む錦飾れず風なびく 喪服姿で母の遺影を 085:化石 積年の汚れを…

損した気分

076:舎 病舎には快適な風ながれても 横たう母に死の臭いして 077:等 死も風も平等なのに母の死は 自分ひとりが損した気分 078:ソース 母偲び名店のカツ買い求め ソースたっぷりかけても哀し 079:筆 達筆な母の最後のメモ帳は 風に乱れたようで読めない 080:…

こがらし吹けば

071:粉 粉々に火葬の骨は崩れ散り 熱風に母は揉まれて消えた 072:諸 生前の母を騙した諸々を 詫ぶ独り言こがらし吹けば 073:会場 「ママはどこ?風が寒い!」と探す父 母の葬儀の会場なのに 074:唾 唾棄すべき男を母は息子ゆえ 風の香りで守って死んだ 075:…

窓打つ風雨

066:缶 薫風を味わいながら缶ビール 母が死に行く病室なのに 067:府 冥府から母の誘いが来るを待つ 午前三時の窓打つ風雨 068:煌 棺には風は届かず煌めきを 増すは花だけ母は死顔 069:銅 母偲ぶ涙が銅を腐蝕させ あの風色が版画のように 070:本 母看取る僕の…

朝風乱れ

061:宗 葬儀社に宗派伝えて慌ただし 母臨終の朝風乱れ 062:万年 生前の母が育てた万年青らも 秋風のなか雑草となる 063:丁 母の死後知る本籍は二丁目で 僕が知らない風が吹く街 064:裕 裕然と死を待つ母を茫然と ただ眺めては風も忘れて 065:スロー 死に至る…

古きアルバム

056:リボン リボン付け袴の母が風に立つ 子を産む前の古きアルバム 057:析 涙から析出されぬ悲しみは 風に消えたか母の納骨 058:士 友同士語り広がる風聞は 母とは別の女の葬儀 059:税 形見分け清貧風に色あせた 税がかからぬ母の通帳 060:孔雀 母の死後母に…

生ぬるい風

051:緯 つらい風北緯何度に舵とれば あの世の母にたどりつけるか 052:サイト 母に似た人を求めて彷徨える サイトの闇に生ぬるい風 053:腐 寒風の一人の部屋で冷奴 昨年までは母と湯豆腐 054:踵 母偲び涙なみだの葬儀終え 踵返してそれぞれの風 055:夫 夫婦と…

風立つ朝に

046:貨 野辺の風母の遺骨に生命なく 貨物列車で運ぶみたいに 047:四国 四国さえ遠いからと行かぬ母 黄泉へ旅立つ風立つ朝に 048:負 風洗う焼野原立ち負けたのは 自分じゃないと母は生き抜く 049:尼 春風の尼僧のように微笑みて 息子を許す母の死顔 050:答 墓…

騒ぐ風鈴

041:扇 子供らが眠りつくまで団扇風 おくりつづけた母があの世に 042:特 特にない母の遺品を漁る秋 古びたヤカン騒ぐ風鈴 043:旧 旧道を押す車椅子母を乗せ これが最後の追い風の坂 044:らくだ 黎明にらくだのシャツで行く父を 風と見送るアカギレの母 045:…

最後の寝顔

036:バス ソプラノがバスへと変わる呻き声 熱風は凍て母は無言に 037:療 治療法途絶えて母は死出を待つ 風に微笑む最後の寝顔 038:読 病床の母の想いを読み取れず カップ酒干す風下の闇 039:せっかく せっかくの介護保険も使わずに 風雪に耐え生きて死ぬ母 0…

黄昏の風

031:認 認印ひとつ押すごと母の死が 戸籍の底で風化していく 032:昏 呼びかけど母は応えず微笑まず 昏睡のまま黄昏の風 033:逸 時を止め母を殺して逸脱の 風はおさまりまた熱帯夜 034:前 「もういいよ行きな母さん」のろのろと 風車が止まる死の前夜祭 035:…

母と二人で

026:湿 風は止み湿地の闇は静まりて 白木位牌の母と二人で 027:ダウン 死ぬ母の風に乱れた心電図 旅が始まるカウントダウン 028:改 改めて母を偲べばまた風が あの日この日の思い出乗せて 029:尺 尺貫の時代に母が買ってきた 五文の靴で風を駆け抜け 030:物 …

音も秋風

021:小 また少し小さくなった母がいる 棺に花と最後の風を 022:砕 砕かれた枯葉が風にあしらわれ 母を求めて追われるように 023:柱 線香が母の残り香変えていく 柱時計の音も秋風 024:真 若き日の写真の中の母が母 老けた姿は風に燃やそう 025:さらさら さら…

サルビアの風

016:荒 細々とやつれて荒れた手で招く 病の母に風が応える 017:画面 遺影とは異なる画面若き日の ママに駆け寄るサルビアの風 018:救 風の中母と最後のドライブは 救急車で向かう病院 019:靴 秋風に季節はずれの靴二足 母が遺した動かぬ物質 020:亜 亜鉛華に…

丑三つの風

011:怪 妖怪の母でいいからあの世まで 会いに行こうか丑三つの風 012:おろか 風吹けば門扉はおろかドアノブも 音も凍てつく亡き母の家 013:刊 取りに行く母亡き日々の朝刊は 読まれぬままに風雨に染まる 014:込 風流に書き込められた一行に 苦しいとあり断末…

また風に消え

006:婦 老いてなお風の水面の夫婦鳥 水中の苦労子は知らぬまま 007:度 窓の風温度ばかりを高めゆく 母の生命は冷えゆくままに 008:ジャム このジャムは母の手作りあと少し 思い出ひとつまた風に消え 009:異 いつもとは異なる朝の風さわぐ 母亡き庭の草木は枯…

風になる母

001:呼 亡き今は枯葉の風も追うように われ呼ぶ母の声に聴こえて 002:急 いつか来る死とは思えど急だった そんな気がする風になる母 003:要 人生の要の時はいつだって 母がいたはず微風の中に 004:栄 栄え失せ焼夷の風を逃げまどい 平和に飢えた母の青春 005…