題詠短歌2013年2

今日も濁して

096:季節 枯れ枝は若葉青葉の季節経て 今は枯葉の上を貴女と 097:証 生きてきた証を捨てて老い仕度 枯葉とともに土へと帰す 098:濁 水墨の景色の中に散る枯葉 別れの言葉今日も濁して 099:文 夕闇の枯葉の上に書く文字は 「老」より「恋」の一字を選び 100:…

海へと歩く

091:鯨 鯨追い闘い挑む心無く 水仙と海に癒し求めて 092:局 心底の局所の痛み隠し持ち 海岸線の水仙ロード 093:ドア 妄想のドアを押し開け水仙の カーペット踏み海へと歩く 094:衆 観衆の色に染まらず水仙は 海と空とに黄色く映えて 095:例 水仙と水面に映す…

命は紅く

086:ぼんやり 寒牡丹だけにピントが絞られて ぼんやりとした温もりは消え 087:餅 餅と雪真白き幸に寒牡丹 命の紅をさらに加えて 088:弱 わら囲いされ寒牡丹積もる雪 弱音吐かずにひっそり咲いて 089:出口 人妻と小雪舞い出す出口来て また振り返る寒牡丹園 0…

老けゆく自分

081:自分 年一度自分に贈るシクラメン 胸に抱きしめひたすら歩く 082:柔 新しいマフラーに託す柔らかさ シクラメン色の少し派手めな 083:霞 シクラメンは内弁慶で鉢暮らし 霞草とは出会えぬままに 084:左 左にはシクラメン咲き右手には 鏡の中で老けゆく自分…

静かに散って

076:納 納骨はわずかな骨と思い出と 散るひとひらの山茶花と雨 077:うっすら 山茶花が冷えた二人にうっすらと 赤を与えて隙間を埋めて 078:師 はや師走けばけばしさに背を向けて 山茶花のもと溜息ひとつ 079:悪 椿ほど悪と似合わぬ山茶花は ほどほどに生き静…

小さな命

071:得意 盛り花のストレリチアは得意げに 花に囲まれ花を従え 072:産 微笑めばストレリチアに祝されて 産着の中の小さな命 073:史 繰り返し地獄ばかりの歴史あり ストレリチアよ極楽は夢 074:ワルツ 館内にワルツが流れ群衆も ストレリチアも踊り出しそう 0…

迫り来る椅子

066:きれい カサブランカより妖艶な君なれど この花きれいとしか言えない 067:闇 暗闇にカサブランカの匂いして 突然光る携帯電話 068:兄弟 兄弟がカサブランカを娶ったら 家を飛び出し山に逃げよう 069:視 逃げ惑い視線逸らせどいつの間に カサブランカは視…

微風に濡れて

061:獣 蒲の穂に我も身を寄せ古の 小獣ごとき傷を癒すか 062:氏 氏素性わからぬままの神代より この蒲の穂も我にも祖あり 063:以上 水盤に蒲の穂三本挿し終えば それ以上凛と他を寄せつけず 064:刑 刑場の跡地巡りて荒川の 蒲の穂綿は微風に濡れて 065:投 静…

時に染らず

056:善 善人の顔と似合えど善い人の こころと合わず薔薇は買わない 057:衰 衰えた薔薇いちりんを薔薇たちは 包み隠して今日も薔薇園 058:秀 閨秀を薔薇園みたく寄せ集め 競い咲かせばただ息苦し 059:永遠 永遠の紅さを増して薔薇になる 朝陽夕陽の時に染らず…

紅葉(もみじ)は濡れて

051:般 紅葉には般若の面がよく似合う 嫉妬の責めも読経の中 052:ダブル 礼服のダブルの重さ脱げぬまま 紅葉もみじの中へなかへと 053:受 それぞれの哀しみなどは受け入れず ただ赤々と紅葉は濡れて 054:商 参道で商う声に誘われて まずい酒でも紅葉気分に 0…

互いに老いて

046:間 柳蘭動かぬ蜂を眠る子の ように背負いて時間を止めて 047:繋 天空に繋がり求めひとつずつ 柳蘭咲く上へ上へと 048:アルプス 目の前に咲く柳蘭アルプスや 山火事跡に咲くらしロマン 049:括 山道を括り染めゆく柳蘭 花期の終りを綿毛に包み 050:互 柳蘭…

ざわめく彼岸

041:カステラ カステラの甘みほどよく菊日和 ひとり飲む茶に笑顔映して 042:若 まだ咲かぬ青さばかりの菊花展 花がなければ若さも哀し 043:慣 慣習の色鮮やかな菊月に 我を忘れて倭人に帰る 044:日本 カタカナの名の花は増え菊は消え 日本の墓がざわめく彼岸…

秋の気配を

036:少 食卓に赤ひと枝の花なすは 秋の気配を少し早めに 037:恨 花なすは食べてもらえぬ赤い実の 中に恨みを硬く閉ざして 038:イエス イエスとは言えないままに花なすの 実をもぎ捨てるゆるり静かに 039:銃 いつまでも風情変らぬ花なすを 銃撃したくなる夜だ…

風ににぎわう

031:はずれ またひとり人影消えた町はずれ シシウドだけが風ににぎわう 032:猛 黒々と猛暑を印す肌褪せて シシウド揺れる白の秋風 033:夏 里よりもひと足早く山の辺の 夏を終らす猪独活の群 034:勢 天使らが勢い集うシシウドは 汚れを知らぬ白色に舞う 035:…

吾亦紅(われもこう)

026:期 期限切れの赤になるなよ吾亦紅 このままずっと酔っていようよ 027:コメント 我もこうなりたいというコメントの 朱に交わらず咲く吾亦紅 028:幾 幾分は老いたこの目に吾亦紅 枯淡の赤を味わいながら 029:逃 逃げるのをやめ振り向けば吾亦紅 気づかず過…

そっとこのまま

021:仲 睦まじく紫苑を眺めもう少し 恋仲みたくそっとこのまま 022:梨 梨むかれ果皮は地に落ち白き実を 紫苑の野辺の空に掲げて 023:不思議 紫苑揺れ不思議な時に包まれる 紫式部も見たこの花と 024:妙 神妙に心もてなす紫苑らに 招かれ夏の愛から脱走 025:…

倒されたまま

016:仕事 台風が過ぎて晴れても秋桜と 仕事の欲は倒されたまま 017:彼 秋桜と彼岸花とは似合わない まるで僕たち二人のように 018:闘 風に乗りゆらりゆらゆらコスモスは ゆるり闘う痩せたボクサー 019:同じ 大群のコスモス枯れて今もなお 同じ大地に咲く陰の…

言うか黙るか

011:習 観月の習わし消えた窓辺立つ すすきの風を想い浮かべて 012:わずか 風わずか吹けば尾花は揺れ止まず 行くか戻るか言うか黙るか 013:極 極端な静けさを増し夕陽さす プールにすすき子等に変わりて 014:更 またひとつ色を失い更ける夜に 芒ばかりが揺れ…

咲く彼岸花

006:券 群れ群れて金券シート敷き詰めて 高まる価値か咲く彼岸花 007:別 彼岸花曼珠沙華か死人花 呼び名ひとつで別の想いに 008:瞬 彼岸花咲きて瞬時に変わりゆく 季節とともに衣も恋も 009:テーブル テーブルの一輪挿しに彼岸花 残した君の想いは何か 010:…

君は微笑む

またひとつ弱さ纏いて新たなる 強さ求めて竜胆の坂 甘言を弄する術も身につかぬ ままに佇む道に竜胆 各論を寄せ集めても竜胆の 青にならずに咲かずに枯れて 竜胆を手向ける風の哀しみに 寄り添いやがて君は微笑む 竜胆に託す叫びは土を打ち 嵐の中にかき消さ…