全面ごめんの人生だけど

「ごめんねと冷たい指でメール打つ」牧童

僕は「ごめん、ごめん」と、ごめんを連発しながら生きてきた。ごめんねが僕の口癖になっているのだ。

ごめんね。僕には、こんなふうにしか君を愛せないんだ。

深夜、一人で温泉に入った。大浴場には五十代くらいの男が一人だけ入っていた。彼は僕に気が付かずに「ごめんなさい、ごめんなさい」と大声で連発しながら、ゴシゴシと力いっぱい頭を洗っていた。見てはいけないものと出会ってしまったような気がして、僕は彼に見つからないように、その場を逃げ去った。

部屋に戻ると、彼のごめんなさいがとても気になり、眠れなくなった。
また酒を飲みだし、いろいろ考えてみた。

たぶん彼は…
幼い頃、頭を洗われるのが嫌だったのだろう。いたずらの罰として頭を洗われていたのだ。

「また寝小便して!」
ゴシゴシ…
ごめんなさい、ごめんなさい…

「またこんなに泥んこになって!」
ゴシゴシ…
ごめんなさい、ごめんなさい…

「いたずらしたら、また頭を洗うぞ!」と母から脅されながら育ったのに違いない。

再び大浴場に行くと誰もいなかった。僕も彼のマネをして、ごめんなさい、ごめんなさいと大声で叫びながら頭を洗ってみた。おやっ!
実に気持ちがいいぞ。
頭の汚ればかりか頭の中の汚物まで浄化されていくようで、実に壮快な気分になれた。

ごめんという言葉は他人に謝罪するためだけにあるのではなく、過ちを犯した自分を浄化させるための言葉なのだということが実感できる。

貴女も、ごめんなさい、ごめんなさいと大声を出しながら頭を洗ってみてご覧。きっともっときれいになれるだろう。