完走

今年は雨をテーマにした。題詠のおかげで様々な雨のシーンを思い浮かべることができ、楽しく過ごすことがでた。題詠だから、自分でも不満足なものが多くなってしまうが、この中から数首でも自分が好きになれる短歌ができたらいいなと思い、毎年取り組んでいる。そして、あなたが、これっていいねと思ってくれる短歌が一首でもあれば嬉しい。

001:咲
ばちばちゃ咲かせ枯らせてもう二度と
咲かない庭に今朝も雨降る

002:飲
飲むほどに雨はモルトの価値をさげ
薄く広げてぼかした墨絵

003:育
まだ育つはずの命を無駄にして
雨を活かせず雨に流され

004:瓶
空瓶に雨水残し晴れわたる
墓に一輪つぼみの菊を

005:返事
返事せず逃げ去る野辺に追いすがる
肩打つ雨は今も激しく

006:員
哀しみを動員できない要因は
涙より濃い雨が降るから

007:快
雨に濡れ重さ増し行くGパンは
快楽求め躓く不快

008:原
色あせた原風景に降る雨は
フィルムノイズ伴いながら

009:いずれ
いずれ降る雨より早く来た別れ
晴れているから笑うしかない

010:倒
雨足が罵倒しあったあの日々を
思い出させて遠のいていく

011:錆
今朝もまた錆色の雨降りやまず
消した過去まで増水させて

012:延
延々と闇に絡まれ悶々と
氷雨に濡れたままの歳月

013:実
適熟の実を背景に抱く君と
時雨暮れ行くこのひと時を

014:壇
いつの間に根こそぎ変わるこの花壇
雨に濡れても不自然のまま

015:艶
艶やかな肌も衣服も濡れたまま
涼雨の中に消えたあの人

016:捜
雨に溶け捜し出せない思い出が
また浮かんではまた流されて

017:サービス
夕立が霙に変わる衝撃の
サービスがつく恋を買わされ

018:援
酔うほどに自戒が馴染む雨音に
孤立無援の肴がひとつ

019:妹
寒々と妹背背きて突き進む
道なき道を雨止まぬまま

020:央
ただひとり走る中央フリーウェイ
あの春は雨この秋も雨

021:折
筆を折るような気持ちで携帯の
アドレス消そう雨が止んだら

022:関東
関西の雨に汚れた女など
忘れてしまえ関東の僕

023:保
自尊さえ保てぬままに雨に立つ
百均の傘バギャンと折れて

024:維
ほころびたジーンズまでも蘇る
繊維模様の雨に抱かれて

025:がっかり
がっかりとさせて夜明けは晴れていた
傘一本の重さ残して

026:応
会うたびに夕陽が黒い雨になる
まるで化学の反応みたく

027:炎
熱湯のスコールプラス氷雨降る
恋の炎の体感温度

028:塗
カラフルに塗りたくられた絵日記が
雨をにじませ ひと色となる

029:スープ
雨に待つ缶入りスープすでに冷め
飲まずに捨てて あてなき街へ

030:噴
噴水を感じる頬にひとしずく
涙のようにぽつりと雨が

031:栗
栗色の髪を乱して雨に濡れ
微笑みながら流す涙を

032:叩
爪先を叩き続けて行き先を
惑わす雨か行くかそれでも

033:連絡
連絡が取れず霙に名も顔も
冷たくかすみ閉ざされていく

034:由
さよならと別れることも今ならば
自由だろうに雨に縛られ

035:因
人類の三千年の因習を
含んだ雨が自由を奪う

036:ふわり
ふわり散る雨に抱かれてあんみつの
味を残した唇同士

037:宴
まださめぬ酔いをお供に一人舞う
時雨紅葉の宴ふたたび

038:華
ひとしずく華麗な雨はひと光
地に落つ前に青葉の上で

039:鮭
群れ登る雨の舗道の女たち
秋鮭みたく本能だけで

040:跡
二人して立ち止まってた跡だけは
まだ濡れてない天気雨だね

041:一生
この雨が明日もやまずに降るならば
一生君を忘れないのに

042:尊
見上げれば清き雨さえ見下せば
自尊も崩れドブの流れに

043:ヤフー
雨篭りヤフー検索ぼんやりと
きっと誰かに会える気がして

044:発
発情を促す雨も今はやみ
ひとり静かに露をながめて

045:桑
まぐわいの雷雨逃れて桑の道
桑原くわばら振り向くなかれ

046:賛
賛美歌の流るる庭に溜まる雨
まだ降りやまず終らぬ懺悔

047:持
傘を持つ手に重圧の雨量増す
逃れたいのに手放せぬまま

048:センター
センターの喧騒逃れ飛び出せば
雷雨で君を置き去りにして

049:岬
海色も濁りを増して別れ時
岬雨降る夏の終りに

050:頻
朝を待つ頻りに君が恋しくて
雨音だけの闇の寝床で

051:たいせつ
たいせつな今日も一日雨の中
思い出づくり水に流して

052:戒
開け放ち吹き込む雨に濡れるまま
自戒と自慰を忘れ去るまで

053:藍
雨風に藍を濁らせ狂う海
助け求めた叫びを消して

054:照
徹夜して照る照る坊主作っても
僕の本音は雨よ降れ降れ

055:芸術
芸術のように見えたるこの雨も
さめればただの広がる汚染

056:余
空蝉の余命を告げる雨はやみ
何も残さず静かな夜明け

057:県
君が住む県は明日も明後日も
雨が降るらし だからメールを

058:惨
逃げもせず振り向きもせぬ野良猫を
突き刺すように雨惨憺と

059:畑
まだ続く畑ちがいの話など
どうでもよくて雨音を聴く

060:懲
懲らしめの雨に濡れても燃え上がる
夢の続きを帰宅するまで

061:倉
閉ざれた倉庫は人を受け入れず
土砂降りの音さらに激しく

062:ショー
曇りぞら雨のち晴れと変わりゆく
君が演じるショーをながめる

063:院
雨やまぬままに寺院を巡り行く
寺それぞれにそれぞれの雨

064:妖
雨ふれば妖しさ増してネオン街
行き交う傘も酔わされている

065:砲
小雨降る砲台跡は肌寒く
海の向こうの敵は何処に

066:浸
首すじに雨侵入の衝撃と
雨浸水の不快な靴と

067:手帳
空白の手帳見つめて何もなく
明日は雨だと予報を記す

068:沼
旅人が眺める沼は打ちつづく
雨に動ぜず静寂のまま

069:排
晴れの日は排出しない泣き言を
雨に濡らしてつぶやいてみる

070:しっとり
黒髪は小雨を含みしっとりと
涙笑顔を半分隠し

071:側
北側の窓の埃を落とすよに
吹き付ける雨まだティタイム

072:銘
墓碑銘を浮かび上がらせ雨が降る
傘を近づけ読んだふりして

073:谷
渓谷の闇を早める夕時雨
紅葉も色を失いながら

074:焼
雨上がりあの夕焼けを見たときの
心は君と結ばれていた

075:盆
突然の雨降りだした盆踊り
着慣れぬ浴衣ぬらして娘

076:ほのか
雨にとけ風に包まれ君の髪
微笑むたびにほのかにかおる

077:聡
聡い子や愚かな子等や俯く子
色さまざまに雨の通学

078:棚
棚上げにされたあの日の問題を
思い出させて降り出す雨が

079:絶対
絶対に別れないよと嘘をつく
明日は晴れる雨の日だから

080:議
ここだけが濡れないなんて不思議だね
氷雨の中で温もり残し

081:網
雨上がり網戸に残る水滴の
ように貴女にしがみつきたい

082:チェック
突然の豪雨に濡れてチェックイン
服を脱げずに見つめあうまま

083:射
射る雨に刻々と増す歯の痛み
君といるのにキスもできずに

084:皇
傘ひとつ二人の肩は雨に濡れ
無言のままに皇居の秋を

085:遥
溢れ出る涙がぽつり呟いた
遥かなむかし僕は雨だった

086:魅
雨上がり満月映す水たまり
君が覗けば魑魅魍魎

087:故意
あれやこれ未必の故意をあの人に
殺したくなる雨止む前に

088:七
七夕のとき雨だった今日も雨
送信しても星に届かず

089:煽
見上げれば僕の心を煽る雨
イルミネーション今年が終る

090:布
身体まで布製だった防げずに
染み込んでくる雨と誹謗と

091:覧
観覧車降りれば雨が降り出して
二人見上げる数分前を

092:勝手
身勝手に生きてきました儘ならぬ
雨に打たれて濡れたコートで

093:印
掻き込んだ印度カレーの後味を
洗い流そう冷たい雨で

094:雇
不確かな雇用のままに年を越す
骨折れた傘雑踏の雨

095:運命
今度会う日が雨ならば別れよう
それが僕らの運命だから

096:翻
手のひらを翻してはほくそ笑む
自由の奪う女神の豪雨

097:陽
一粒の雨が陽気を奪い取り
言葉ひとつで笑顔が消えた

098:吉
公園の雨を逃れて吉祥寺
かわりゆく街かわらぬ自分

099:観
老いてなお諦観できぬ雨の街
濡れた衣服と汚れた髪で

100:最後
とき流れ二人の想い変わりゆく
最後の雨は霙か雪に