白髪の思い出

「毛染やめ共に白髪に熱射乗せ」
牧童

僕は若い頃から白髪が多かった。早くロマンスグレーになりたいと思っていた。

二十数年前、黒々とした陰毛の中に一本の白髪を発見し、四つ葉のクローバーの時のように感激した。抜き取り、置時計の後ろにセロテープで貼付けておいたら、妻に発覚して時計ごと捨てられてしまった。

こんな僕だから白髪を染めるなんて考えてはいなかった。
僕は年齢より若く見え、昭和27年生まれだと言うと、嘘!若く見える!と驚きの声が上がっていた。ところがある飲み会で年齢を言ったらいつものような反応がなかった。後で送られてきた写真を見ると髪が白く写っていて、どう見てもジジィでしかない。総白髪ならまだしも斑白髪は貧相だった。

嘘は嫌いだが、身体にひとつ嘘を与えることにした。
ついに染めてしまったのだ。
初めて染めた時の周囲の反応は無言。鬘だとわかりながら、それを指摘しない大人の心理かな?

還暦を過ぎ、髪を染めるのが面倒になった。自分では綺麗に染まらないし、生え際の白髪が醜い。

髪を染めるはもうやめた。
ロマンスグレーにはなれないけれど。