甘い囁き

夏みかんあのすっぱさが懐かしい」牧童

僕は果物が好きだ。
高級フル-ツとは無縁で、果物は安いものだというイメージが焼きついている。だから一個百円以上の果物は買う気にはなれなかった。最近、やっと一個二百円以下に格上げした。それでもケ-キや酒から見ればはるかに安い。

冬の定番は温州みかん。冬場の喉の渇きに実に美味である。ところが春になるとまずくなり、食べたくなくなる。籠の中でひからびたり、黴たりしてくる。すると伊予柑や八朔などが登場し、酸味が強い夏みかんへと移行していく。
子供の頃の夏みかんは凄まじいまでにすっぱかった。口に入れると顔が歪んだ。父は夏みかんの皮を母がむきはじめると逃げ出してしまった。砂糖や塩や重曹を付けたり、潰して砂糖と牛乳をかけて食べていた。
ゴツゴツした顔の夏みかんが今の市場から消えてしまった。あのすっぱさでは買う人がいないだろう。

僕は、はるか(春香)という品種が好きだ。日向夏とサマ-オレンジの突然変異種らしい。果肉がプルンプルンしていて、甘くて美味しい。見た目はレモンや夏みかんのように黄色い。見た目にはすっぱそうなので最初は売れなかったそうだ。

人も果物も見た目で判断されてしまうようだ。
アメリカの心理学者のアルバ-ト・マレ-ビアン博士は人が他人から受け取る情報は
〇顔の表情が55%
〇声の質、大きさ、テンポが38%
〇話す言葉の内容はわずか7%に過ぎないという。まさに人は見た目が9割なのだ。
ところがネットでの人間関係は見た目の情報が希薄であり、書く内容で評価される。つまり人相が悪い僕にとってネットはありがたいコミュニケーションツ-ルなのだ。顔や声を気にせずに、甘い言葉を囁くことができる。