穴があいた靴下

「靴下の穴を見つめて日向ぼこ」牧童

硝子ごしの日だまりの中で足を投げ出して座っていた。ふと見ると靴下の指先に小さな穴があいていた。さらに大きく広げ、親指を出してみた。可愛いなと60歳を過ぎた僕が微笑んだ。

靴下に穴があくと、穴があいていないほうまでも捨てていた。ある人から、同じ物を何足も買っておけば、片方がダメになってももう片方はまだ使えると教わったので実行することにした。
僕の場合、右だけに穴があき、左足だけが残っていく。それをまた両足にわけてはく。ところが何か変だと思ったら、ワンポイント模様の位置が右と左とでは違うことに気がついた。無地または左右全く同じものを買わなければいけなかったのだ。でも今更、まあいいかとはくことにした。なれてしまえば気にはならない。
こんな暮らしをしていたら、靴下をペアに揃えてはくことがだんだん面倒になり、左右異なった靴下を平気ではくようになった。
人前で靴を脱ぐことはないし、僕がどんな靴下をはいているのかチェックする物好きもいないだろう。
だが待てよ。
このまま何もかもがどうでもよくなってしまいそうで怖い。どうでもよいことが果てしなく広がっていく。どこかで歯止めをかけないとまずいな、と思う。

今日は一対の新しい靴下をはいて行こう。