虫がいない自然の中で

「梅雨入りや虫と暮らせぬ我も濡れ」牧童

毛虫が大量発生し、壁面にびっしりとへばりついていると言う。殺虫剤も雨のため効果が薄れてしまうらしい。さあ、みんなで見に行きましよう、だって……。冗談じゃない!僕は遠慮しておく。毛虫と聞いただけで慢性蕁麻疹がさらに悪化してしまう。

毛虫よりも
僕は海が見たい。
森林浴がしたい。
アウトドアもいいな。

自然を愛し
自然の中で暮らしたいと思う。
しかし……

僕は生まれてから今まで田舎暮らしをしたことがなく、人生のほとんどをコンクリートの中で過ごしてきた。

最近、蝶を見かけなくなったと、自然破壊を非難し、自然回帰を願う文を僕も書いたりはする。しかし僕は虫が大嫌いなのだ。
でも、どういうわけかカマキリだけは相性がよく、掌に乗せて戯れることができる。カマキリ以外は触ることができない。

飛んでいる蝶はかわいいと思う。
子供の頃、蝶々取りをした。みんなは何匹も捕まえるのだが、僕は網を振り回すだけだった。哀れに思われたのか、友だちが一匹くれた。その時、手に付いた鱗粉に、幼心に汚れちまったと僕は哀しくなって泣きそうになった。まして蛾などは恐怖映画の中だけで棲息して欲しい。

蝉や鈴虫などの虫の音は実に風情がある。ところが捕獲された蝉ときたら騒音でしかない。お願いだから、どこか遠くで優雅に鳴いていてくれと大声で叫びたくなる。

赤子、子供、うるさい女も嫌いだ。
僕のそばに来ないでくれ。

僕は自然派を目指しながら、虫のいない自然の中で静かに暮らしたいと思っている。

静かな女の横で静かに暮らしたいと思っている。