髪梳き

毎日、髪を洗うのが当たり前になったのはいつの頃からだろうか。
生理の時の洗髪は禁忌だったはずなのに、今の女たちはどうなのか。
僕の母はパーマの後は何日も髪を洗わなかったはずだ。

歌舞伎の濡れ場では「髪梳き」が男と女の性愛表現として用いられるように、女の生命である髪は性的なものとして極めて大切だったはずだ。

鬢付け油で仕上げ、何日も洗わず、さらにベタつく髪。そして匂い。この匂いは悪臭ではなく、フェロモンとなっていた。

この時の髪の匂いを残念ながら僕も知らない。

毎日、洗髪し、髪の毛さらさら、リンスの香り。
これでは性愛表現もサラサラとした淡白好みになってしまいそうだ。

歌舞伎の『雪暮夜入谷畦道(ゆきのゆうべいりやのあぜみち)』では、罪人として追われる直次郎と恋人の遊女三千歳の逢瀬が演じられる。情緒あふれる清元が流れる中で、久しぶりに再会した三千歳と直次郎による「濡れ場」がある。
 ここで三千歳が直次郎の髪を簪(かんざし)でなでつけるしぐさがある。これを「髪梳き」(かみすき)といい、男女間の愛情を表現する手法として行なわれる。歌舞伎では「濡れ場」を直接的に表現することはほとんどなく、「髪梳き」のように音楽に合わせた象徴的な演技で表現する。
(実は僕は歌舞伎を見たことはないし知識もないのだが)