幸せのテールランプ

「幸せを纏わぬままに冬支度」牧童

家の前の夜道に停められていた小型車に初老の男が乗込もうとしていた。突然、二階の窓が開き、二人の幼子の大きな声が響き渡った。

おじいちゃん
おじいちゃん
ありがとう
いつもありがとう
おじいちゃん
おじいちゃん
また来てね
かならず来てね

おじいちゃん
おじいちゃん……

走り去る車が微笑んでいた。
幸せのテールランプの姿が消えた後も、幼子の声が木霊していた。

おじいちゃん…
おじいちゃん…

家庭を見捨てた僕には、もう味わえない幸せ。

ふん、今さら何よ!

長年別居している妻の怒りの声が幻聴となった。

今夜は寒いね。
コンビニのおでんを買おう。