2019題詠短歌 刻まれる皺
刻まれる皺
001:我
残酷な天使のように微笑んで
老いゆく我に突き刺す言葉
002:歓
老いてなお運命などは知らぬまま
蒼い散歩の風に歓ぶ
003:身
振り返るもしも我が身に羽あらば
気づくだろうか神話の未来
004:即
パトスまで即身仏は朽ち果てて
価値ある死へのアンチテーゼか
005:簡単
簡単に眠れる夜は失われ
眠れぬ首に刻まれる皺
土に寝転べ
006:危
いたいけに微笑む髪を見つめれば
危険な恋の光を放つ
007:のんびり
のんびりと黄昏消える思い出に
生きた歴史を風に飛ばして
008:嫁
生きのびる責任だけを転嫁され
神なき闇に私は生きる
009:飼
飼い犬は空に潰され自由など
知らなくていい土に寝転べ
010:登
暑すぎて逃げ出す愛に滲む汗
階段登る背中に別れを
空を押し上げ
011:元号
百年の平和が続きますように
新元号に二人の願い
012:勤
勤勉な父母が育てた柿の実は
親亡き今も空を押し上げ
013:垣
徒長枝が垣根を乱し庭は荒れ
ハナミズキまで咲かずに枯れた
014:けんか
果てのないけんかばかりの君なのに
白い下着にひきつけられて
015:具
具をよけて白い心を探す日々
あの頃確か好きだったのに
古びたチラシ
016:マガジン
あの頃の貴女の声が消えていく
マガジンラックに古びたチラシ
017:材
青春を楽しむための材料に
気づかぬ昔そこにある今
018:芋
蒸かし芋小さな手にはまだ熱く
それが僕らの時代のおやつ
019:指輪
永遠誓う離婚指輪があるならば
手放せぬまま老いゆく指に
020:仰
仰ぎ見る小さな星に託す恋
雨か月かで消えゆくひかり